【プレスリリース】「バイオマス発電はカーボンニュートラルではなく、燃焼時にCO₂が排出される」ことを、資源エネルギー庁「FIT/FIP制度におけるバイオマス燃料のライフサイクルGHG排出量の規定値」に明記すべき

ウータン・森と生活を考える会は、2023年1月23日に、経済産業省資源エネルギー庁新エネルギー課のパブリック・コメント「FIT/FIP制度におけるバイオマス燃料のライフサイクルGHG排出量の既定値について(案)に関する意見募集について」 (1/23 23:59 締め切り)に対し、意見提出を行いました。(注:GHGは、Greenhouse Gas=温室効果ガスの略)

パブリックコメント意見募集案の3ページ ⅴ)発電の①によれば、「バイオマス燃料の使用からの CO₂排出については 0 とみなす」とありますが、これは完全な誤りです。新エネルギー課に問い合わせたところ、「農林水産省バイオマス活用基本計画」の4ページに記載の「バイオマス燃焼は生物の成長過程で大気中のCO₂を吸収するのでカーボンニュートラル」を引用して、「バイオマス燃料はこれまでにCO₂を吸っているのでカーボンニュートラルとみなしている」と説明されました。

しかし、「今後これ以上のCO₂を出さない」というのが再生可能エネルギー促進の目的です。気候変動に関する国際的な合意であるパリ協定の目標として、気温上昇を1.5℃に留めるためには、残りのCO₂排出量を世界全体で4000億トンに抑えなければなりません(カーボン・バジェット)。そのために2030年までに排出量半減、2050年までにゼロにしなくてはならないのです。バイオマス燃料が燃える際にはCO₂が即時に排出され、その燃焼時の排出係数は、石炭火力発電の排出係数を上回ります( 国立研究開発法人国立環境研究所, “日本国温室効果ガスインベントリ報告書“(2021.4),p.82 )。また、吸収には相当な年月がかかります。バイオマスのGHG排出研究の第一人者であるプリンストン大学のティモシー・サーチンジャー博士など多くの研究者が、「樹木を伐採し燃やすことで数十年~数世紀にわたり温暖化を悪化させる」と報告しています( 参考:GEF 地球人間環境フォーラム「 気候危機を悪化させるバイオマス発電~1.5℃目標との整合性を問う~石炭より悪い輸入木質バイオマス~森林保全による炭素固定の重要性 」)。伐採後に適切な再植林が行われない場合、自然が回復せずにそもそも吸収しないという意見もあります( 参考:FoE Japan「【見解】バイオマス発電は「カーボン・ニュートラル(炭素中立)ではない」)

よって、バイオマス発電はパリ協定を達成するための手段ではなく、かえって気候変動を悪化させる「グリーン・ウォッシュ」なのです。今後、国際的に認められた GHG 排出量の算定と報告の基準である「GHGプロトコル」や企業が1.5度目標を達成するためのWWF、CDP、WRI、国連グローバル・コンパクトによる共同イニシアティブ「SBTi」は基準を厳しく改定し、バイオマス燃焼によるCO2排出量を一様にカウント・公表しなくてはならなくなる見込みです。この基準に沿って、バイオマス発電の電気を利用している際に、「使用するバイオマス発電の電気が燃焼時にCO₂が排出されること」を海外展開する日本企業も明記しなくてはならないことになります。FIT制度では、事業者が売電して得られる費用には、再エネ賦課金として私たちが支払っている電気代が使われています

ウータン・森と生活を考える会は、経済産業省資源エネルギー庁に対して、私たちの電気代を利用して、気候変動を悪化させるバイオマス発電のFIT制度による運用を即時に見直すことを要請します。

以下、当会の提出した意見です。
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000245718
(2ページ)
Ⅰ.はじめに
各バイオマス燃料のライフサイクル GHG の既定値を算出するに当たっては、以下に示 す FIT/FIP 制度におけるライフサイクル GHG 計算方法に従いつつ、EU RED2 において 活用されている既定値や、過去の WG において業界団体から示された情報等を参考とした。
→業界団体からのみ意見を聞くのは公平性に反するので、今後は積極的に呼んでNGOや学者の言うことを聞くべき。
 
② 発電所やバイオマス燃料の製造工場などの設備建設による排出は考慮しない。
→発電所やバイオマス燃料の製造工場などの設備建設を含むすべての排出を考慮すべき。
 
③ CO₂回収・隔離、 CO₂回収・代替利用(バイオマス起源の CO₂に限る)による GHG 排出が回避できる場合、排出削減として考慮することができる。
→そもそもCCSはリスクが高い。リスクの検討が済むまでは③は記載すべきではない。
 
(3ページ)
ⅴ)発電 ①バイオマス燃料の使用からの CO₂排出については 0 とみなす。
→発電時のGHG排出が計算されていない。ものを燃やしたらCO2が排出されるので、それを計上すべき。今後、吸収すると主張したいなら、何年間で何kg吸収するか細かい計算式をもとに提出すべき。吸収するのが2050年以降であれば、カーボンニュートラルに反するので、一切認めるべきではない。
 
計算は、こちらが参考にできる。
https://www.gef.or.jp/wp-content/uploads/2022/12/bbd4731754105f73e348ee35cca7119c.pdf
 
→「これまでにCO2を吸収してきた」と言うのは理由にならない。なぜなら、森林に蓄えておけばずっとCO2が閉じ込められるからである。地球温暖化による気温上昇をある一定の数値に抑えようとした場合、その数値に達するまでにあとどのくらい二酸化炭素を排出しても良いか、という「上限」を表すカーボンバジェットの考え方を取り入れるべき。パリ協定の1.5℃目標を達成するためのカーボンバジェットは残り4000億トンである。2050年までに”排出自体をゼロにする必要がある”、“2030年までに半減”することを認識すべき。FIT制度が終了する2040年代にバイオマス発電で莫大なCO₂を排出していれば国際的な非難を受けることは必至である。
 
→国際基準のGHGプロトコルやSBTiでは燃焼をカウントしている。これらの国際的な基準に合わせるべき。
 
GHGプロトコル、SBTiにおけるバイオマス燃焼の排出カウントについては、こちらが参考にできる。
https://www.gef.or.jp/wp-content/uploads/2022/12/203aa11cde68de898258c608f163f6fc.pdf
 
(7ページ)
Ⅱ.農産物の収穫に伴って生じるバイオマスのライフサイクルGHG既定値
1.既定値の算定結果
現状、FIT/FIP 制度において認められている農産物の収穫に伴って生じるバイオマスは、以下の3種類が挙げられる。
・パーム油 ・PKS ・パームトランク
 
→上記を栽培する際の泥炭地の土地転換について、莫大なGHG排出があることが記載されていない。記載すべき。
 
こちらを参考にできる:
https://www.gef.or.jp/wp-content/uploads/2022/12/bbd4731754105f73e348ee35cca7119c.pdf
 
(34ページ)
輸入木質バイオマスについては、木質チップ、木質ペレット各々の燃料について、以下 の3種類の原料種に応じて設定した。
・林地残材等
・その他の伐採木(※肥料投入の無いものに限る)
・製材残渣
 
→「林地残材等」については、カナダやアメリカで、原木が切り倒され環境破壊が報告されている。ちなみに地域住民が公害による被害を訴えており、人権問題にもつながっている。よって、「林地残材等」は省くべき。
 
こちらを参考にできる:https://www.gef.or.jp/news/event/221220_seminar_bcforestbiomass/ (カナダ)
https://www.gef.or.jp/wp-content/uploads/2022/08/Ecosustainabiogreen_Wood_Pellets_Jp.pdf (アメリカ)