生物多様性の宝庫 熱帯林
地球上の約半数の生物は、地表のわずか数%を占めるにすぎない熱帯林に生息しています。ボルネオの熱帯林1ヘクタールあたりに生育している木の種類は約400種類で、ヨーロッパ全土よりも多いとも言われています。
熱帯林は中南米のアマゾン、東南アジアのボルネオ島、ニューギニア島、スマトラ島、中部アフリカのコンゴ等赤道を中心とした高温多湿で降雨量の極めて多い地域に広がっています。
そこに生息するオランウータンやゴリラやチンパンジーなどの類人猿を始め、樹冠層で生きるユニークな爬虫類や両生類、世界中に愛好家を持つ鳥類、独特の寄生植物や食虫植物、擬態する昆虫、光る菌類等は生態系の中で数万年以上の時を経て互いに関係しあって変化しながら生き延びてきました。その多くはその場所だけにしか生息していない固有種です。
熱帯林は生命の大きな源であるだけでなく、その一帯に暮らす人々にも水や土壌を供給しています。また、世界中で使われている薬の原料の多くを生み出すなど、人類全体にとっても極めて重要な「生物多様性の宝庫」です。
私たちの生活は様々な生き物に支えられて成り立っています。その生き物を支えるのが 生態系です。生態系は生き物のつながりによって成り立っており、つながりが欠けるといとも簡単に壊れてしまう可能性がありますが、人もその例外ではありません。
しかしながら、生物多様性の宝庫である熱帯林が、主に大企業による人為的な開発によってどんどん失われ、危機的な状況に陥っています。2000年には、8割が既に破壊されたと報告されました。現代は6回目の絶滅の時代とも言われています。その原因を生み出しているのは人類なのです。
生物多様性とは
生物多様性とは、生きものたちの豊かな個性とつながりのことを指します。地球上には40億年という長い歴史の中で、さまざまな環境に適応して進化した、3,000万種ともいわれる多様な生きものが生まれました。これらの生命は一つひとつに個性があり、全て直接的、 間接的に支えあって生きています。生物多様性条約では、生態系の多様性・種の多様性・遺伝子の多様性という3つのレベルで多様性があるとしています。(*1)
*1981年に『生物が一日一種消えてゆく』 (小原 秀雄)(*2)という本が出版され、衝撃をあたえました。しかし現在、種の絶滅を測るのは「時間あたり」となっています。
過去の自然状態での絶滅は数万年~数10万年の時間がかかっています。平均すると一年間に0.001種程度であったと考えられています。 一方で、人間活動によって引き起こされている現在の生物の絶滅は、過去とは桁違いの速さで、1975年以降は、一年間に4万種程度が絶滅しているといわれます。(*1)
急速に失われる熱帯の森は地球上の約半分の生物種が生きています。その中には、全く私たちに存在を知られることなく消えていく種も 多いのです。
熱帯林の生態系はとてつもなく豊かで複雑
一つの種が欠けると、他の種にしばしば深刻な影響を与えます。例えば熱帯林のイチジクの仲間(クワ科イチジク属)は、オランウータンをはじめ、沢山の動物の食料ですが、小さなイチジクコバチ(類)という蜂に花粉を運んでもらいます。 イチジクの種類ごとに異なるイチジクコバチがいます。一種のハチに適応した植物は、その蜂がいなくなれば生きてはいけません。 この関係を相利共生といい、長い長い時間をかけて共進化してできた結果なのです。
土壌には「分解者」と呼ばれるさまざまな生物がいます。枯死木や生物の死骸を分解してバイオマス(生物由来の有機生資源)に 変える働きをします。たとえば、熱帯地域に多く分布するシロアリ類は 枯死木を分解して年間1ヘクタール300kgものバイオマスを 生産します。これらはセンザンコウ・オランウータン・鳥類などにとっても重要なエネルギー源となるのです。 開発で枯死木などが取り除かれると、シロアリとともに豊かな生物相も消えてしまうのです。(*3)
これらの生態系は何億年も気の遠くなる歳月をかけて形成されてきました。そのバランスは一度壊れてしまうと元に戻すことは不可能なのです。
インドネシアは生物多様性の「ホットスポット」
インドネシアの熱帯林は世界のなかでも生物多様性が豊かで、1ヘクタールあたりに生育する木の種類(約400種類)や生息する昆虫の種類は、ヨーロッパ全土よりも多いとも言われています。
一方で絶滅危惧種も多い「ホットスポット」となっています。 ホットスポットとは、コンサベーション・インターナショナルによれば、そこにしかいない維管束植物の「固有種」が1500種以上生息し、人の手が加わったために、原生的植生の内 7割以上が失われている多様な植生であるが、失われる危険にさらされている場所のことです。 WWF(世界自然保護基金)によれば、インドネシアの面積は地球の地表の1.3%に過ぎませんが、世界に残存する熱帯林のおよそ10%が インドネシアにあり、世界の植物種の11%、哺乳類の12%、爬虫類・両生類の 7.3%、鳥類の17%が生息しています。(*4)
インドネシアは沢山の島からなり、島単位で隔離されて進化を遂げたことや、アジアとオーストラリアの2 つの動物区にまたがるため、 特に多様な生物が生息する場所です。
また種類の多さだけでなく、ここにしかいない「固有種」が数多く見られます。植物では、ラミン、メランティといった稀少樹種をはじめ、 生態系の上位に位置するスマトラトラ、マレーグマ、ウンピョウ、ボルネオゾウ、オランウータンなどが挙げられます。
しかし、その多くはIUCNの絶滅危惧種に指定され、あと数年後には地球上から姿を消してしまうかもしれません。
私たちへの恩恵
私たちの暮らしには食べ物、衣類、住まいなどありとあらゆるものが生き物からの恩恵を受けて成り立っています。 西洋医薬の25%は熱帯林産といわれます。インドネシアの微生物からマラリアの新薬が研究されるなど、医薬品の資源としても重要です。 米国国立がん研究所が制がん性を認める植物の70%は、熱帯雨林だけに見つかります。
穀物や野菜、果物といった農作物は野生の植物を改良したものであり、多様な生物の進化があってこそ生み出されています。また、生物種が 生き残るためには、気候の変化や病気の蔓延などが原因で絶滅しないように、さまざまな環境変化に適応できる遺伝的多様性も必要です。 私たちが生きていくためには多様な生き物とそれを支える生態系が必要なのです。 熱帯雨林の持つ様々の「生態系サービス」をお金に換算すると、年平均で1haヘクタールあたり54万円、全世界で982兆円という試算も あります。(*5)私たちは本当にこれだけの費用を払ってきたのでしょうか。 この世界は絶滅しそうな生き物を含めたすべての生き物のものです。そして私たちもその生き物の一つなのです。
ウータン・森と生活を考える会は、インドネシアで失われてしまった熱帯林再生のための植林を行っています。オランウータンなどの多様な生き物が棲める森をめざし、 土地に適応する原生種を植える活動を行っています。一人の小さな一歩で世界は変わります。私たちに力を貸してください!
ご支援・ご参加のお願い
お問い合わせフォーム
ご感想、ご意見等 お問い合わせは入力フォームからお願い致します。
後日担当者から連絡させていただきます。