パーム油の問題

パーム油の問題

パーム油が私たちの身近な油であることをご存知ですか?コンビニやスーパーに販売されている3分の1以上の商品にパーム油が使われているとも言われています。世界一生産されている油について、原産地で大きな問題が起きています。森林破壊、人権問題、森林火災、ひいては 地球温暖化まで…私たちにできることはあるのでしょうか。

パーム油とは?

パーム油とはアブラヤシという椰子から取れる植物油脂のことです。アブラヤシの原産は西アフリカですが、1848年にインドネシアに持ち込まれてから、ボルネオ島等の東南アジア地域を中心に商業栽培が広がっていきました。2015年に大豆油を抜いて世界一生産されている植物油となりました。アブラヤシの果肉からはパーム油が、種子からはパーム核油が得られますが、これらはスナック菓子、インスタント麺、マーガリン、アイスクリーム等の加工食品、洗剤、石鹸、化粧品、医薬品などに幅広く利用され、日本では一人当たり年間4㎏以上も消費していると言われています。加工食品では「植物油脂」としか表記されず、その他の製品でもパーム油と記載されることは稀です。そのためにパーム油は「見えない油」とも呼ばれています。しかし、 私たちの生活とパーム油は密接につながっているのです。

パーム油の生産、消費国は?

アブラヤシを育てるには高温多湿な気候と十分な日照時間が必要であるため、どこでも生産できるわけではありません。 この生育条件に当てはまる地域は赤道を挟む湿潤な熱帯地域、すなわち東南アジア、アフリカ、中南米に限られます。 中でも、生産国としてはインドネシア、マレーシアが突出しており、世界のパーム油生産量の85%以上を占めるほどです。 両国にて生産されたパーム油は国内での消費もありますが、インド、中国、EU等世界中の消費国に輸出されています。 もちろん日本も輸入しており、菜種油に続いて二番目に多くパーム油を消費しています。

なぜパーム油が多く生産されるのか?

パーム油が多く生産される理由は、その生産性の高さと価格の安さにあります。一度植栽すると年間を通じて絶えず果実の収穫が可能なため、他の油糧種子とは異なり、生産面積当たりの油の生産性が極めて高いという特徴があります。同じ面積での油の生産量は大豆の約10倍とも言われます。このようにパーム油は生産性が高いため、植物油脂の中で最も安価な価格を維持できるという仕組みです。また、近年ではパーム油をバイオディーゼルにも使う動きが活発で、生産量の増大に拍車をかけています。 しかし、便利なパーム油の生産にともなって様々な問題が起きているのをご存知でしょうか?

パーム油がもたらす問題とは?

もっとも憂慮すべき問題は、森林伐採、生物多様性の消失を含めた環境破壊です。これはアブラヤシの農園を造成する際に、熱帯雨林を伐採しアブラヤシのみを植栽するプランテーション(大規模農園)を作ることが主な原因です。一見すると緑が広がっているように見えますが、 実際は単純化したプランテーションのため、複雑な生態系の中で生物は生きられません。開発時には熱帯林に存在するすべての木々を皆伐するために、野生生物が棲むことのできない致命的な熱帯林破壊となるのです。そのために多くの希少な固有種が絶滅の危機に追いやられています。

 アブラヤシ農園の大きさはどれくらいなのでしょうか?最低でも3,000ヘクタールと言われる農園の広さはちょうど大阪の市内を電車が一周するJRの環状線くらいの大きさです。多くの農園は数万ヘクタール以上の規模なので、一つの農園がいかに大きなものかがわかるかと思います。僕が初めて足を踏み入れたインドネシア中央カリマンタン州タンジュン・プティン地区に隣接するアブラヤシ農園も、かつてはラミンやメランティやウリンという大木が立ち並び、オランウータンやテナガザルもたくさん生息する場所だったといいます。今や見る影もなく、干上がった大地と同じアブラヤシの光景が延々と続いているのみです。

 

アブラヤシ農園は 森林火災も誘発しています。2015年にインドネシアを襲った大規模森林火災は、ボルネオ島(カリマンタン島)、スマトラ島などの熱帯林で特に酷く、東京都の面積10倍を超える260万ヘクタール以上の森を焼き尽くしました。逃げ惑うオランウータン、焼かれた大きなヘビ、立ち枯れた大木などショッキングな写真や動画が私たちのもとに送られてきました。人々の暮らしにも大きな影響があり、シンガポールまで達した煙害による交通の混乱、学校の閉鎖、多数の健康被害、それらに伴う経済的損害が連日報道されました。

しかし、何よりも世界を驚かせたのは、たった3ヶ月間の森林火災だけで、日本の一年間の総排出量を超える16億トン以上の温室効果ガスが排出されたことです。その原因の一つはインドネシアに半分以上存在すると言われる熱帯泥炭地です。熱帯泥炭地とは、高温多雨の熱帯地域に広がる地下水位の高い湿地で、樹木の枝や葉など有機物の遺骸が十分に分解されずにできた泥炭(ピート)が数千年間蓄積してできた土地のことです。この泥炭に莫大な炭素が貯留されており、開発や火災とともに排出されたのです。

 

もともとは湿地が広がる熱帯泥炭地で大規模な火災が起こることはありませんでした。しかし、1900年代後半以降にアカシアやアブラヤシなどの大規模なプランテーション開発を目的とする排水により、乾燥化と荒廃化が進みました。泥炭が乾燥すると非常に燃えやすくなります。その結果、泥炭地では火災が頻発し、乾期には雨が降らずに数ヶ月間燃え続けました。すなわち、人為的な要因によって「炭素の貯蔵庫」から巨大な「炭素の放出源」へと転じてしまったのです。熱帯泥炭地の火災は、人類におって後がない気候変動の大きな原因として脅威となっています。

 

アブラヤシ開発の影響を受けるのは野生動物だけではありません。周辺の村では、莫大な量の農薬が垂れ流された川の水を生活用水に使うために健康被害が起きたり、開発時に水路を掘る排水作業で村の農地が旱魃や洪水の被害に見舞われたりするようになりました。

また、ジャワ島などからの移住労働者や日雇い労働者など安い労働力に支えられるプランテーションでは、ずさんな管理の中での強制労働、児童労働などの人権問題が指摘されています。

その他、プランテーション企業と地元コミュニティの間の土地紛争、森と共に暮らしてきた先住民が住む土地が収奪されるなど極めて悲惨な人権侵害の状況が各地で報告されています。 

パーム油問題への解決策は?

 パーム油問題への解決策としてどのようなものがあるのでしょうか?消費者は油を選ぶことができます。例えばLUSHという石鹸の会社は、パーム油を使わないパームフリーキャンペーンを行なっていますが、消費者にはそのような選択もできます。一方で企業の立場からすると、パーム油を使わないことは難しいという声も聞かれます。別の選択肢として、環境や人権に与える負荷が少ない方法で 生産されたパーム油を使用するというものがあります。

環境や社会の問題を背景に、2004年にRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)が、パーム油に関連する企業や環境・人権系のNGOによって設立されました。RSPOでは、パーム油生産時の環境や労働者の人権への配慮、企業のコンプライアンスなどの原則と基準を設けて、基準を満たした農園から生産されたパーム油およびそれを使用した製品に対して認証を与える制度です。消費者はRSPOの認証マークがついた製品を買うことで、第三者によって持続可能な生産だと認証されたパーム油を選ぶことができるという理屈です。 

 日本でも、一部の洗剤メーカーなどが率先してRSPOに取り組んできましたが、近年、大手食品会社や生協やイオンといった小売業が相次いで参入、日本でも2019年にJaSPON(持続可能なパーム油調達のためのネットワーク)が作られるなど注目を集めています。

 

 一方で、RSPOが持続可能なパーム油生産と流通をめざしているとは言え、現場では持続可能とは程遠いという批判があります。実際にウータンが活動するタンジュン・プティン国立公園近郊に広がっているアブラヤシ農園は、親会社が変わってCSR活動に力を入れ始めてからRSPO認証を取得しましたが、元々はオランウータンが棲み、貴重なラミンの木が生い茂る豊かな森を転換したものです。筆者はそこで殺害されたオランウータンの骨を発見しました。

 

 そもそもプランテーションというものが、熱帯林を皆伐して作られたもので、そこに生物多様性は存在しません。ですから、パーム油に持続可能性と名付けること自体が論理的に成り立たないのではないか、という批判も根強く存在します。

 

 また、NGO・企業主導のRSPOに対抗するため、マレーシア政府主導の認証MSPOインドネシア政府主導の認証ISPOを日本に売り込んで来ている動きがありますが、これらの認証は特に環境面で甘く杜撰であり、また第三者評価担っていないために到底認証と言えずグリーンウォッシュであると言えます。

消費者としての私たちに何ができるでしょうか?

  さて、日本に暮らす私たちには何ができるでしょうか?遠い国で起こっている関係の無い出来事だと思っている人は、コンビニやスーパーやドラッグストアに溢れているパーム油を使った食品やトイレットペーパーやティッシュペーパーなどの紙製品、ホームセンターのフローリング材や家具がどこからやってきているかを思い起こせば、自ずと私たち消費者につながっていることがわかると思います。

 

 例えば、パーム油の問題に気づいた時に、消費者としてどのような油を日々使っているのだろう?と考え、調べて見ましょう。日常で料理に使う油、加工食品に使われる油には、菜種油、大豆油、オリーブオイル、米油など様々な種類のものがあることがわかります。できるだけ環境に配慮した油を選ぶにはどうすればいいでしょうか?

 

 「とんでもない面積がパーム油のために開発されている!パーム油なんて使いたくない!」と言いたくなるかもしれません。世界で第二位の植物油脂は大豆油ですが、大豆の栽培面積はなんと12000万ヘクタール超、日本の国土の三倍以上です。2020年に生産量一位となったブラジルでは、大豆農場が豊かな熱帯サバンナ地域であるセラードを破壊して作られた上、肉牛の放牧地を北へ押し上げることでアマゾン破壊につながっています。世界で第三位の植物油脂は菜種油ですが、菜種の農場面積は3400万ヘクタール、日本の国土に近い大きさです。その多くが遺伝子組換えで危険性が指摘されています。

 

 国産で有機農法で作られたエゴマや椿などの環境に配慮した油もありますが、日常で使い続けるには相当に高価な値段です。ウータンのメンバーもお手伝いをしている菜の花プロジェクトみのおでは、0.06ヘクタールの有機農園で全て手作業により育てた菜の花から取れた菜種から28.5リットルの油を作っています。畑を耕し、種をまき、苗を植え替え、育て、収穫する。汗を流して作られた僅かな油いかに手作業で作られた油が貴重なものか、そしてこの世界に安い油がいかに多く溢れているのかがわかります。

 

 昔の人々にとって油はもっと貴重なものでした。安く手に入るようになった背景には、大規模なプランテーション化などの環境破壊が関係しています。一方でたくさん使うようになった背景には、私たちの日常のライフスタイルが影響しているのではないでしょうか?農作業に行って汗を流して、その日に採れた新鮮な野菜を食べる生活ではほとんど加工食品を食べることはありません。しかし、夜遅くまで仕事をしている、締め切りに終われて徹夜をするそんな生活が続けばファミレスやコンビニに頼ることになるでしょう。一方で、有機農業で採れた新鮮な野菜をその日のうちに消費すれば、油に塗れた生活からは逃れられますし、健康に暮らせるかもしれません。

 

 私たちは日々の消費行動を変えることで、企業や店舗への影響を通じて社会を変えることができます。また、企業に自分たちの望む商品をリクエストしたり、行政に消費者として望ましい政策を要望することもできます。ウータンではパーム油が莫大な量を必要とするバイオマス発電事業に使われようとしている現状を知り、地域住民の方々と勉強会を重ね、企業や金融機関や行政へ粘り強く訴えを起こしてきました。その結果、京都府で2カ所のパーム油発電所を撤退に追い込むことができ、経済産業省の政策もより厳しいものへと変わってきました。私たち消費者・市民は必ずしも無力ではないのです。

 

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