熱帯泥炭地と気候変動

熱帯泥炭地と気候変動

インドネシアやマレーシアに広がる熱帯泥炭地には多量の炭素が蓄積されています。温室効果ガスである二酸化炭素となり多量に放出されたら… インドネシアの熱帯泥炭地は開発や火災により莫大な温室効果ガスを放出する土地へと変わっているのです。

熱帯泥炭地とは

熱帯泥炭地とは、高温多雨の熱帯地域に広がる地下水位の高い湿地で、樹木の枝や葉など有機物の遺骸が十分に分解されずにできた泥炭(ピート)が数千年間蓄積してできた土地のことです。特に東南アジアのボルネオ島やスマトラ島に多く見られ、深い泥炭は10メートル以上に及びます。豊かな生態系を育む熱帯林の多くは、熱帯泥炭地の上に形成されているのです。

膨大な温室効果ガスを含む熱帯泥炭地

熱帯泥炭地には、莫大な炭素を貯留しているという特徴があります。世界には約10億ヘクタールの泥炭地が存在し、500ギガトン(5000億トン)の 温室効果ガスを含んでいると言われています。北海道大学の大崎満教授によれば、ボルネオ島の「水の森」の地下に貯蔵された泥炭の炭素量は550億トンと桁外れに多く、ここ数十年の乱開発や森林火災によって、「炭素の貯蔵庫」から巨大な「炭素の放出源」へと転じています。 

世界有数の熱帯泥炭地を保有するインドネシアは,開発による土地利用変化に伴う温室効果ガス排出量が年々増加しており、2013年のデータでは国全体の65%以上を占めました。2015年に起こったインドネシアの大規模森林火災では、日本の一年間の二酸化炭素総排出量(2014年度13.6億トン)を大きく上回る16億トン以上の温室効果ガスが排出され、気候変動への大きな影響が懸念されます。

開発により破壊される熱帯泥炭地

これまでにインドネシアの熱帯泥炭地の多くが開発され、残された熱帯泥炭地も開発の危機に面しています。ボルネオ島の泥炭湿地林は1920年頃に比べて6割が失われ、2016年のWWFのデータでは、2005~15年の10年間で250万haが消失するなど開発のスピードは加速しています。

熱帯泥炭地の主な開発には、アブラヤシプランテーションへの農地転換やアカシアプランテーションへの産業用植林地転換が挙げられます。アブラヤシから生産されるパーム油は、インスタント麺やマーガリン、スナック菓子などの植物油脂、石鹸、洗剤、化粧品等にも使われ、世界で最も生産されている油です(パーム油の問題参照)。アカシアプランテーションからはコピー用紙、トイレットペーパー、ティッシュペーパー等が生産されます。これらは私たち日本の消費者ともつながりが深い商品と言えます。

アブラヤシプランテーションを開発する時には、アブラヤシを植えやすくするために、熱帯林を皆伐し、水路から水を流出させて土地を平坦にします。熱帯泥炭地の湿地の水面が下がると空気に触れた泥炭が分解し、中に含まれていた大量の炭素が温室効果ガスとなって排出されます。熱帯泥炭地を1メートル掘ることで、年間1ヘクタールあたり93トンのCO2が排出される計算となります。

また、乾燥化した泥炭は非常に燃えやすく、開発によって乾燥した熱帯泥炭地は、 森林火災を引き起こしやすくなります。森林火災時には地中の泥炭も延焼し火災が広範囲に広がります。土壌の泥炭の分解はさらにすすみ、大量の温室効果ガスを発生させるのです。

気候と生物多様性の保全のために

インドネシア大統領令32条によれば、3メートル以上の深さの泥炭湿地は保護されることになっています。 しかし、2000万ha以上あり372億トンの温室効果ガスを含むインドネシアの熱帯泥炭地は、今もなお開発され続けているのです。多くのNGOがこのまま熱帯泥炭地を開発しつづけることは、貴重な生物多様性が損なわれるだけではなく、気候変動にも大きな影響がでると指摘しています。 

熱帯泥炭地を守ることは、生態系を守るだけでなく、気候変動を防ぐためにも必要です。ウータン・森と生活を考える会では、2017年度より熱帯泥炭地の保全と再生にむけたプロジェクトを行なっています。

熱帯泥炭地に関する学習会

ウータン・メンバー現地報告会〜ボルネオ島の泥炭地に暮らすコミュニティと森の共生を考える〜 2019.10.14 神前進一(ウータン・森と生活を考える会 アドバイザー)石崎雄一郎(ウータン・森と生活を考える会 事務局長)

第10回パーム油学習会「泥炭地回復への挑戦とエンタイトルメント-人々の積極的参加を得るには?」 2018.4.14ゲスト:水野広祐さん(京都大学東南アジア地域研究研究所総合地球環境学研究所教授)
 
2018.2.4,7 海外ゲスト講演会 ウェットランド・インターナショナル ヨヨ氏「インドネシアの泥炭地の現状と回復への取組み」

第9回パーム油学習会「熱帯泥炭は地球の心臓と肺」~ボルネオ熱帯林から見る地球温暖化防止の最前線~」 2017.12.2 ゲスト:大崎満さん(北海道大学農学研究科名誉教授)

の資料・動画は以下のリンクからご覧いただけます!

熱帯泥炭地の保全と再生

 ウータン・森と生活を考える会では、2015年にカリマンタン島やスマトラ島で甚大な被害をもたらした大規模森林火災に深く関わっている熱帯泥炭地問題の調査及び保全・再生に向けた計画作成等のプロジェクトを今年度より始めました。熱帯泥炭地の重要なポイントは主に次の3点です。

1.熱帯泥炭地の上に広がる熱帯泥炭林は、野生生物が多く生息し、生物多様性の宝庫である。

2.熱帯泥炭地は、その形成過程で莫大な炭素を地中に固定し、開発による排水、乾燥化、火災などにより温室効果ガスとなって排出される。2015年のインドネシア大規模森林火災時のCO2排出量は、日本の年間総CO2排出量を上回ったほどである。

3.熱帯泥炭地は極めて長い年月をかけて植物が腐敗分解せずに堆積してできた土地であるが、その下部の土壌は栄養が極めて低く、熱帯泥炭地を一度開発すれば元に戻すことは困難である。

スンガイ・プトゥリ地区の熱帯泥炭地保全にむけて

スンガイ・プトゥリ地域は、2015年に当会が訪れて、深い泥炭とオランウータンの巣を発見した場所です。2017年度初め、スンガイ・プトゥリ地域で中国系投資会社と関係する木材会社による長い水路が掘られたという写真付きのショッキングなニュースがありました。世界的に貴重な熱帯泥炭林を守るために調査を開始しました!

スンガイ・プトゥリの開発問題

左の地図は、IARInternational Animal Rescue)という国際NGOが作成したものです。赤い線がニュースに出ていた木材会社モヘアソンのコンセッション(土地利用許可)・エリア、青の線がパーム企業によるコンセッション・エリアで、大幅に重複しながら泥炭地の大部分を占めています。海岸沿いには村が並び、森林火災のホットスポットがオレンジで示されています。

 IARによると、この森には極めて深い泥炭林が広がり、1000頭を超えるオランウータンが棲んでいるが、開発により存亡の危機にあるそうです。    

スンガイ・プトゥリのCU「PANTURA LESTARI」

スンガイ・プトゥリ地域西部の海岸沿いをつなぐ道路沿いの村では、2008年から、NGOのFFITitianRAREが共同でプロジェクトを進めて、結果としてできたCUと呼ばれるクレジット・ユニオン(Credit Union=信用組合)が発展し、活動を続けているといいます。 

スンガイ・プトゥリ地域のCUは、「PANTURA LESTARI」と名付けられ、2010年に4村を主とした村人により設立されました。設立当時23人、資本金8800万ルピア(約75万円)だったCUの規模は、現在は580人、40億ルピア(約3,400万円)となりました。メンバーは週に1度事務所に集まり、男性2人、女性2人の専門スタッフがいます。

CUに入会すると、初めにお金を預けます。額は200万ルピア(約17,000円)が最低で、300万ルピア(約25,000円)が最高。借りるときは月利2%で、預けるときは1.25%、返さなかった場合は、ペナルティで借りられなくなります。現在のCUメンバーのお金を借りる目的は、①預金として、②生活の消耗品の購入、③車やバイクの購入、④商売を始める資金、などということです。

当初の目的は、お金がないために一時的な現金収入として違法伐採が横行していたので、村人でも気軽にお金を貸し借りできて運用できる仕組みとしてCUができ、実際に結果として違法伐採は減ったそうです。ただし、当初は、環境を破壊する行為には貸さないというルールがあったものの、今は特にルールは無い、ということです。そのようなルールが無ければ、CUで貸し付けたお金が、熱帯泥炭林を破壊する事業に流れる心配があるでしょう。実際に、スンガイ・プトゥリ村のアスパウィ村長にお話を伺ったところ、「村人はアブラヤシの開発を待っていると思う」とのこと。

もちろん全ての村人がそうではなく、自分たちの土地の権利を主張して開発に反対している村の住民もいるということです。また、環境林業省の政策で、70%の森林保全地域と30%の村人の収入になる土地利用をミックスさせた「アグロエコツーリズム」と名付けられた3000haの泥炭地植林が、2018年から計画されていると聞きました。すでにトゥンプラカン村の個人によって、ドラゴンフルーツ、ドリアン、チェンペダ、ロンガン、アボカド、ランブータン等約40haの土地で植林がすでに始まっているとのことで、CUでも一人1本1000〜2000Rpを出し合って、メンバーで苗を用意する話をしているとのことです。

NGOによるコミュニティ・オーガナイズの取り組み

FFIのパームシュガーを用いた地域支援プロジェクト

インターナショナルNGOFFIFauna & Flora International)のアディ(ADI)さんによると、現在FFIでは、HUTAN DESA(村の共有林)でのコミュニティ・ビジネスの支援を通じた熱帯林保全プロジェクトとして、中央カリマンタンのMurung Raya地区での野生のコーヒー、Kapuas Hulu地区での天然ナッツ、クタパン地区での地域特産パームシュガーを扱った3つのプロジェクトを進めているということでした。

これらのプロジェクトに共通することとして、その地域で昔から収穫している農作物を使うことで、アブラヤシ・プランテーション開発のような大規模な環境破壊を伴わないことがあげられます。また、90%がコンサベーション、10%を生活支援に当てることで、環境保全と生活の向上の両立をめざしています。

例えば、クタパン地区Laman Satong村では、パームシュガーをコミュニティ・ビジネスとして販売するプロジェクトを20178月にスタートしましたが、野生のArenArenga Rineto)の木から130リットルのパームシュガーが毎日場所を変えて収穫ができます。ケタパン地区は現在ジャワ島から1ヶ月2トンほどのパームシュガーを輸入している状況なので、売れば余計な支出を収入に変えることができます。また、大きな工場ではなく、家庭規模で加工するレベルなので環境負荷や過剰生産も少なくなります。かつては地域で伝統的になされていた技術の継承にもつながりますし、他の地域との交流を通して知識や経験を学ぶこともあるそうです。

 JICAクタパンオフィスの取り組み

JICAといえば、日本の政府開発援助(ODA)を一元的に行う政府の機関ですが、現地ではNGOとして知られているようでした。JICAケタパンオフィスでは、主にグヌンパルン国立公園のマネジメントをしていますが、国立公園スタッフのキャパシティビルディングやローカルコミュニティとの協働も行なっているとのことです。20173月から、この地域の21の村の利用可能な土地(Land use area)で、国立公園スタッフや火災対策オフィスと協働しながら、ローカルコミュニティ向けの森林火災対策として村人へのファシリーテートを始めました。まずはコミュニティオーガナイズ(住民の組織化)をし、Behavior Change(意識と行動の変容)をめざしていくとのことです。また、「コミュニティ・パーセプション・スンガイプトゥリ」というプロジェクトをスンガイ・プトゥリ村で来年始めるので、ウータンもよかったら参加してくださいとのことです。ヒアリングで伺ったJICAケタパンオフィスの役割は、主に地方政府、地域コミュニティ、学者、NGOの調整役ともいえるようなイメージでした。

 

IARとオランウータンの棲む森

IAR(International Animal Rescue)のオフィスは、オランウータンのレスキューをしているだけあり、豊かな森に囲まれた広い土地にあります。IARでは、木材会社モヘアソンによる開発等、スンガイ・プトゥリの現状を聞きました。その時に見せてもらった690kmに及ぶ長い運河が掘られている上空からの映像はとてもショッキングなものでした。この会社のコンセッションエリアには深い熱帯泥炭林も含まれていますが、開発が続けられれば、IARの推計で1000頭以上のオランウータンがいるスンガイ・プトゥリの森での野生生物への影響によるダメージ(IARはこれまでこの森から25頭のオランウータンを救助した)にさらに拍車をかけるものとなります。 

 この森では、以前からも周辺部からの開発、森の中での違法伐採があるとのことですが、実際に2日目に僕たちが訪れたスンガイ・プトゥリの熱帯泥炭林の入り口では、2010年頃の違法伐採の痕跡や森林火災による影響が見られました。また、驚いたことに、火災後の地面からアカシアの木が成長しており、聞くと数キロ先のアカシアプランテーションから風で飛ばされた種が勝手に成長しているだろうということでした。

モヘアソンによる開発は、インドネシア政府も問題にしているようで、2016年12月には泥炭地回復庁(BRG=Badan Restorasi Gambut)がやめるように言ったにもかかわらず、2017年1月にも掘られ、その全ての土地が泥炭地であったとのことです。これに対して、IARはウェットランドやグリーンピースと共同でインドネシア林業省に対して問題を訴えました。 コンセッションエリアは、村の土地とも重なっており、この地で農業を行う彼らの生活への影響も心配されます。企業からはわずかな補償しかないそうです。コンセッションエリアの接する5村の農民はジャカルタで林業省の人間に会って問題を訴えたいと思っており、NGOのサポートがいるかもしれないということでした。一部の村人は企業に対してデモを行ったが、コミュニティリーダーは買収されているそうです。  

開発を止めるための戦略としては、コミュニティの反対を促すこと最も強く、NGOが言うよりも地域住民が声を上げることが効果的であるために、IARはコミュニティ支援を行なっているが、この方法には時間がかかる。一方で、今回のケースのように差し迫った開発に対してはキャンペーンとメディア戦略も必要となるというカーメレさんのお話でした。

スンガイプトリで続く違法伐採とオランウータン

スンガイプトリ地区の海岸近くに位置する 57000haが泥炭 湿地林ですが、そのうち48440haにPT. Mohairson Pawan Khatulistiwa社(以下 MPK 社と表記) の森林伐採権が2008 年から 45年間設定されています。地区用途区分は伐採やプランテーション開発が認められる生産林および転換生産林で、保護林 全く存在しません。2013 年以降、MPK 社 中国投資家から資金支援を得て、60kmに及ぶ排水路建設を計画し工事を始めました。2016 年 10 月に泥炭地保護大統領令に違反して排水路が建設されていることが地元住民から通報で知られ、2017 年 3 月に森林・環境省が現地を視察し MPK 社に活動停止と水路封鎖を命じました。

2017年11~12 月に地元 NGO YIARIとBKSDAの共同チームがMPK社の許可を得て、コンセッション内でオランウータン、植 生、泥炭状況について緊急調査を行いました。その報告書が今年 3 月に完成、6月5日にGreenpeaceがこのレポートについてプレスリリースを行い、AP電を通じ世界主要紙が報道し広く知られることになりました。それによるとオランウータンの巣の数は、スンガイプトリ地区全体で813から1204 頭と推定、保護区域外生息数として世界最大であると確認されました。この調査中に違法伐採が日没後日出まで間に盛んに行われ、少なくとも 6 か所に伐採キャンプ兼製材置き場が存在し、違法伐採キャンプが 6 か所以上存在、昼間にトラックで運び出されていることが確認されました。泥炭地の深さ調査からコンセッション 84%以上が泥炭地生態系保護機能地域に分類されるべきで、泥炭地とオランウータン、周辺地域住民の農地を守るために、保護区域に指定しプランテーション開発を中止させることが緊急に必要としています。しかし、州知事や県知事は誘致した中国系合板工場で雇用を守るために開発継続を主張しており、森林・環境省と 対立が続いていて予断を許さない状況にあります。

今年4月6日付の森林・環境省準公式サイトforesthints.news で現地視察時の多数の写真が公開されました。これによるとMPK 社コンセッション内に現地作業事務所建設工事を進めており、作業計画書によれば、伐採・排水されたコンセッション内の泥炭湿地林は、ほどなくジャボンという早生樹 プランテーションに転換されるだろうとしています。スンガイプトリ地区南端に事務所を構える IARは、オランウータン保護・リハビリだ けでなく、生息地や生態系を守るに地域住民が中心になって動く必要があると考え、昨年私たちを案内してくれ たエマさんをコミュニティー・オーガナイザーとして迎え、住民への意識啓発や働きかけを強化してきました。

今年 1 月 10 日に住民、政府、民間部門、NGO から70 名以上が参加し、住民参加型地図作りと土地利用計画策定に向けた公の協議が行われました。これは、IAR と熱帯林保護 NGO Tropenbos Indonesia が共同して開いたもので、スンガイプトリ村のアスパウィ村長も出席していました。IARは森林を保護林と利用林に区分する提案を行ったが、村長はこれを拒否し、IAR にアブラヤシ企業を連れてくることを求めたといいます。これを受けて IARは、スンガイプトリ地区 8 村のうちの別村でコミュニティ開発を支援することを決定し、タンジュン・バイク・ブディ村とウラック・メダン村の住民による地図作り・土地利用計画策定とそれに基づく村づくりを Tropenbos とともに支援しつつあるといいます。私たちも9 月初旬に再訪し、エマさんと話し合いを続けています。

熱帯泥炭地再生の先進地域視察

インドネシア中央カリマンタン州(ボルネオ島)は、2015年の大規模森林火災の際に、全国最多の30057ヵ所(森林・環境省)のホットスポットが見られた州で、そのうちプランピサウ(Pulang Pisau)県は3201ヵ所と最多を占めました。焼失面積も75.5万ヘクタール(泥炭地 44.1万ha、非泥炭地31.1万ha)と全国最大で、火災後に大統領直属の機関として新設された泥炭地回復庁(BRG)も中央カリマンタン州を森林火災対策・泥炭地回復の最優先地域と位置付けている注目の地域です。

泥炭地回復と森林火災防止の最前線 ―中央カリマンタン州メガライスプロジェクト跡地―

インドネシア中央カリマンタン州(ボルネオ島)は、2015年の大規模森林火災の際に、全国最多の30057ヵ所(森林・環境省)のホットスポットが見られた州で、そのうちプランピサウ(Pulang Pisau)県は3201ヵ所と最多を占めました。焼失面積も75.5万ヘクタール(泥炭地 44.1万ha、非泥炭地31.1万ha)と全国最大で、火災後に大統領直属の機関として新設された泥炭地回復庁(BRG)も中央カリマンタン州を森林火災対策・泥炭地回復の最優先地域と位置付けています。 

プランピサウ県は、メガライスプロジェクト(「スハルト政権末期の1996 年に食料不足解消を目指した国家事業として中央カリマンタン州南東部の広大な泥炭湿地林を開墾してジャワ島やバリ島などから多数の農民を入植させて、総延長4000km以上に及ぶ灌漑水路網を掘り水田造成を試みたが、ことごとく失敗して、広大な土地が放置されたままになっている)が行われた地域で、10m以上の深さの泥炭層からなり、インドネシアの温室効果ガスの大きな排出減となっています。インドネシアの場合、土地利用変化による温室効果ガス排出量が85%を占め、泥炭地の破壊と分解が41%、森林の破壊と劣化が37%を占めます(熱帯泥炭地と気候変動参照)。これらを考慮に入れると世界第3位の排出国であるインドネシア政府は、2030年までに温室効果ガスの41%削減をパリ協定で約束していますが、この実現のためには泥炭地の回復が喫緊の課題です。そのため政府は泥炭地での新規プランテーション開発の凍結措置に加え、水路閉鎖(canal blocking)による再湿潤化などの事業に、地元大学や国際的な支援のもとに乗り出しているのです。

カナルブロッキングの先進地域ガルン村

ウータン・森と生活を考える会では、元北海道大学の大崎満先生、高橋英紀先生にご紹介いただき、地元のパランカラヤ大学土地火災・森林回復センター長のアスウィン先生を訪ね、彼の助言とコーディネートに従い、泥炭地保全と回復事業の最前線の現場を3つの村で見て回りました。

プランピサウ県ガルン(Garung)村(村長 Wanson氏)は、360 世帯1560 人、村の面積10080haのうち、ゴム園が2188ha、稲作地が 1001haを占め、ゴムと稲作を主業とするダヤク人主体の村です。村役場から近い縦貫道路沿いの古いゴム園の中に作られた掘り抜き井戸(sumur bor、bore hole)は、泥炭層の下にある砂質の基盤層内 25~30mの被圧地下水層に達する井戸を掘削し、森林火災の際の消火に利用するためのもので、簡単な道具と資材を使い6~7人のチームで3時間で完成 し,150万ルピア(約13000 円)で1本を掘ることができます。幹線道路から直角方向に100mおきに掘られ、400m隔てて並行して同様に掘られます。これによって川から離れた森林火災危険ゾーンで200mのホースがあればくまなく森林火災に対応できることになります。この村では2016年からICCTF(インドネシア気候変動信託基金)の助成で100本が掘られ、さらにBRG(泥炭地回復庁)の資金で100本が掘られる予定だといいます。

カハヤン川から流入する茶色く濁った水を湛えた4m程の幅の二次水路はハンディル (handil)と呼ばれ、住民の要望で政府が建設し、住民が組合を作って管理しています。2016年にBRGの資金でスカット(sekat)と呼ばれる木製の堰堤が建設されました。これは泥炭地の地下水位を保って乾燥化と火災のリスクを減じる目的で建設されるのですが、農民が農地へ通う小船が通れる幅と4~50cmの水深を保ってブロックしています。5人で5日がかりで500本のガラム(galam, Melaleuca)の小径丸太を使い500 万ルピアの予算で作られました。 

この水路沿いには2015年の森林火災で焼失した跡地が広がり、パイオニア種に交じって新たにゴムとセンゴン(sengon, Albizia chinensis)やジャボン(jabon, Antho)が植えられていました。この村では2016年、BRGとパランカラヤ大学の支援で共同樹苗園を作り、共有地20haに8000本の植林を行いました。植えられた樹種はセンゴンというマメ科ネムノキ属の在来早生樹で、半年で4mにも成長し、6~7年で伐採可能だといいます。この木はアブラヤシのように泥炭湿地を排水せずに植えることができるパルディカルャーの経済樹種のひとつで、30%は住民の収入創出源に、70%は泥炭地保全にという土地利用のモデルとなっています。センゴンは家具や棚用材として利用され、40万ルピア/m³で取引され、市場価格は110万ルピアということで、インドネシア各地でセンゴンの植林ブームが起きているようでした。

火災防止の先進地ゴホン村

ガルン村の南に隣接するゴホン(Gohong)村は、564世帯2150人とかなり大きな村です。この村では 2006年のカリマンタン縦貫道路建設前は森が保たれていましたが、外部から人が入りタバコの火の不始末等が目立つようになり、エルニーニョ現象が生じた 2007年の森林火災を機に自衛消防団が結成されました。この村では他村に先駆けてBRGの事業として防火帯(sekat bakar)が作られ、ごく最近も外国からの視察団が訪れたといいます。森林火災跡地の泥炭地林を幅10m余りで直線状に伐採し、中央に掘り抜き井戸を配し、両側400m間隔で並行して防火帯が設置されています。この村でちょうど井戸を掘っている場所があり、水が出るまでの一部始終を見ることができました。

燕ハウス建設ラッシュのタルナ村

タンジュン・タルナ(Tanjung Taruna)村は、カハヤン川沿いにある漁業を主な生業とする人口713人の村です。村役場のそばには真新しい立派な火の見櫓が設置され、さらに泥炭地の水位を記録しリアルタイムでウェッブサイトに表示する日本製の機器が設置されていました。今年に入りBRGは泥炭地の地下水位を40cm以内に保ち火災の危険性を減じる監視装置としてプランテーション企業に設置の義務化を検討しているものです。

役場裏手にはパルディカルチャー(泥炭地で排水せずに行う栽培)でチューインガム用樹液をとるジュルトン(jelutung, Dyera)の樹苗園も見られました。 

村はずれには今年初めからBRGによる泥炭地での収入創出事業としてバリ牛飼育プロジェクトが始まり畜舎が設置されていました。バリ牛と地元種カティンガン牛50頭余りをBRGから供与され、25人(実働5人)のグループで自然の草のみを飼料として飼育しています。まだ販売実績はないが仔取りと肥育の両方を手掛けて新たな収入源となるよう、飼育経験のあるバンジャル人男性が世話をしていました。牛糞を堆肥化して野菜栽培や将来的にはバイオガスによるエネルギー自給も目指すといいます。

ここでは湿地に自生するプルン(purun, Lepironia)という植物を使って敷物などを編む手工芸も女性たちによって副業として行われていました。 

しかしこの村では今,燕ハウス建設ラッシュが起こっていて、2年前から家の背後に4階建てのごく小さな窓だけの建物が次々に建てられ、高級食材として知られる燕の巣を作るアナツバメが飼育されています。世話をする村人は収益の10%、村人の土地に建てられた場合は収 益の50%を受け取るシステムで、1kg当たり1000万ルピア(8.2 万円)で売れ、5年待って収穫すると1棟で50kg 取れるといいます。湛水した土地の各所に売地の看板が見られました。

熱帯泥炭地保全の先進地域視察

インドネシアの熱帯泥炭地がアブラヤシ農園やアカシア植林地に転換されて急速に失われていくなか、スマトラ島東岸のスンガイ・トホール村では泥炭湿地を保全しながら生活が営まれてきました。そこで栽培されているのは、”サゴヤシ”という幹に多量の澱粉を含む椰子。村人の日々の食料から輸出用工業原料に至るまで、多様な利用が行われています。こうした持続可能な村の暮らしを2018年3月ウータン・森と生活を考える会のメンバーが視察しました。

サゴ椰子と生きる村
スンガイ・トホール

サゴヤシは、ニューギニア島やマルク諸島湿地に自生し、1 本の幹に150kg 以上の澱粉を含むヤシで,この地域で主食となっている重要な食糧作物です。この村では8 割以上の住民がサゴヤシ栽培に携わり生計を立てています。 強酸性土壌でも塩分濃度が高い土地でもよく育つ,泥炭湿地環境に適した作物で,アブラヤシやアカシア植林と違って排水を行わずに栽培できるパルディカルチャー(湿地を損なわずに商業的価値あるものを生産する取り組み) にうってつけの作物です。しかも単位面積当たりコメの4 倍以上の24 トンもの澱粉が得られ,1 日の労働で17日分の食料が得られるという夢のような作物で,政府もFAO(国連食糧農業機関)も食糧危機の救世主として注目しています。

森林土地権の獲得に至るまでの長い闘いの歴史

この村には森林土地権の獲得に至るまでの長い闘いの歴史がありました。2002 年、この村と周辺 7 か村に設定されていた森林伐採権を持つ企業により、住民のサゴヤシやゴム農園が損害を被ったため,激しい抵抗運動が展開され、伐採キャンプや前村長宅に放火、この罪で多くの住民が投獄されました。これを機に、村がこの 土地の管理権を獲得するための政府との交渉をWALHI(インドネシア環境フォーラム/FoE インドネシア) が支援するになりました。こうしたなか 2008 年に産業造林企業がこの土地の開発権 (HTI)を取得し,住民の反対運動にもかかわらず 10km の大規模排水路を建設した結果、2011 年頃からこの影響で地下水位が低下し、サゴヤシの収量が 3 割ほど減少してしまいました。住民は暮らしを守るために水路に木製の堰堤(sekat kanal)を数多く建設し(カナルブロッキング)、泥炭地の地下水位の低下を食い止める保全活動を始めました。住民は WALHIの支援の下、政府にコンセッション取り消しの請願を続ける一方、村を「持続的泥炭地農業のセンター」にする構想を持ち、若い農民を 組織し、農業多角化のための展示圃場や植林のための苗床設置を行ってきました。

ジョコウィ大統領による視察

そうしたなか、2014 年 2 月にタバコの不始末から火災が発生し、排水され乾燥化した泥炭地に延焼し大規模森林火災となりました。就任したばかりのジョコウィ大統領に視察を依頼したところ、大統領は即座に快諾し、同年 11 月末にトホール村を訪問しました。住民による泥炭地管理に感銘した大統領は「アブラヤシようなモノカルチャープランテーションによって熱帯林が失われることを許してならない」と発言しました。2016 年に BRG(泥炭地回復庁)長官も視察に来村、マナンさんはインドネシア環境賞を受賞するなど、この村が泥炭地保全モデル事例として全国に知られることになりました。同年、政府はHTI(土地開発権)を取り消し、昨年 4月に10,390haの土地管理権が地元 7 村に正式に与えられることになりました。

自助組織による熱帯泥炭地保全

この村のマナンさんという50 歳前くらいの温和な村づくりリーダーは、サゴ麺製造業を行う傍ら、彼が組織した EKAという自助組織の若者たちが自立した生計を立てられるような、新しい有機農業実践圃場を自らの土地を提供して始めました。10 人余りの若者たちが毎日、畑作業に集まり、昼間に水やりや管理作業を行い、夜遅くまで作業小屋で語り合っていました。日本で有機農業経験があるウータンのメンバーが、彼らと野菜談義に花を咲かせました。若者たちが村に留まり多角的な生計を確立し、泥炭地を保全していく営みが持続・発展していくことを願ってやみません。

熱帯林保全に向けてNGOに何ができるか?

 以下の「インドネシアにおける地域住民を巻き込んだ熱帯泥炭地保全と再及び日本での啓発活動を通した気候変動対策」プロジェクトを通して、日本の NGOであるウータン・森と生活を考える会にできることも考え、下記にまとめました。

1.森林火災を引き起こす大きな原因「熱帯泥炭地」の特性についての調査

2.熱帯泥炭地の開発問題とその原因、ステークホルダー、対策等の調査

3.タンジュン・プティン地域とスンガイ・プトゥリ地域での熱帯泥炭地の調査及び保全・再生の体制構築

4.パルディカルチャー等熱帯泥炭地保全・再生の先進地域を訪問・視察

5.熱帯泥炭地の重要性と保全の意義を、開発要員の一つでもある日本の消費者や企業等へ伝えて保全の行動を促すとともに、政府・企業等に熱帯泥炭地保全・再生にむけた提言を行う。

 

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