熱帯泥炭地の保全と再生

熱帯泥炭地の保全と再生

 ウータン・森と生活を考える会では、2015年にカリマンタン島やスマトラ島で甚大な被害をもたらした大規模森林火災に深く関わっている熱帯泥炭地問題の調査及び保全・再生に向けた計画作成等のプロジェクトを今年度より始めました。熱帯泥炭地の重要なポイントは主に次の3点です。

1.熱帯泥炭地の上に広がる熱帯泥炭林は、野生生物が多く生息し、生物多様性の宝庫である。

2.熱帯泥炭地は、その形成過程で莫大な炭素を地中に固定し、開発による排水、乾燥化、火災などにより温室効果ガスとなって排出される。2015年のインドネシア大規模森林火災時のCO2排出量は、日本の年間総CO2排出量を上回ったほどである。

3.熱帯泥炭地は極めて長い年月をかけて植物が腐敗分解せずに堆積してできた土地であるが、その下部の土壌は栄養が極めて低く、熱帯泥炭地を一度開発すれば元に戻すことは困難である。

タンジュン・プティン地区の熱帯泥炭地再生にむけて

ウータンでは、今年度から熱帯泥炭地の保全と回復に向け、その情報収集と発信に力を入れ始めました。その一環として、長年森林再生に取り組んでいるインドネシア中央カリマンタン州タンジュン・プティン国立公園及びその近隣地域における泥炭地の現状や回復への取り組みについて現場からの情報をお届けします。


タンジュン・プティン地区の熱帯泥炭地調査

タンジュン・プティン地区は2015年のインドネシア大規模森林火災で約1/4もの熱帯林が被災し、一刻も早い火災に強い森づくりによる熱帯泥炭地の再生が望まれています。そのための課題と展望を調査に基づいてまとめました。


地域住民を巻き込んだ熱帯泥炭地再生にむけて
〜タンジュン・ハラパン村の青年団の取り組み〜

森林再生には地域住民との協働が欠かせません。タンジュン・ハラパン村の多くの村人がアブラヤシプランテーションで働いている中、FNPFで育ったアドゥさんの働きかけによって、タンジュン・ハラパン村の青年団の中から「在来種の苗づくりと植林をしたい」という声が生まれました。聞けば、「プランテーションの労働はきつく、思っていたほど良いものではなかったが、それに代わる安定的な産業もない(タンジュン・ハラパン村では1997年に大洪水が起こってから農業ができなくなった)」ということでした。ウータンでは昨年度より、青年団に苗づくりと植林を委託し、エコツアーも協働で行いました。今後このような村人主体の活動が広がっていくことを期待しています。


スポット植林による生態系回復
~火災で失われた泥炭湿地林をいつかふたたび!〜

タンジュン・プティン国立公園では、2015年の大規模森林 火災で約4分の1の面積が焼け跡となり、その一部は以前には深い泥炭湿地だったにも関わらず、  頻繁に起こる火災により泥炭層がほぼ 失われた状態です。その面積は6万haにも 上ると想定され、従来のような端から端 まで埋め尽くすような植林方法には莫大な予算を必要とします。

そこで、地元で10年 以上森林再生に取り組んできたNGO・ FNPFは、長年の現場経験から新しい植林 方法論を編み出しました。それは、自然の 回復力(更新)を活用し、最低限の資金と 労働力により効率的に生態系を元に戻す デザインで、当会では便宜上「スポット 植林」と呼んでいます。

この方法では、広大な劣化地の中でもアクセスや作業環境の良い”スポット”だけを選んで植樹し、それらのプロットを繋ぐことで最終的 にはエリア全体の森林回復を目指します。各プロットが林となり花や実をつけた時、周りへ 種が運ばれるなど更新を促す条件が整い始める ため、必ずしもエリア全体を人の手で植樹し尽くす必要はないのです。半年程前から始まったスポット植林は、国立公園の若手現場スタッフと密な連携を持ち、 FNPFスタッフだけでなく若い地元ボランティアも巻き込むという方法で、次世代育成も担っています。 

スンガイ・プトゥリ地区の熱帯泥炭地保全にむけて

スンガイ・プトゥリ地域は、2015年に当会が訪れて、深い泥炭とオランウータンの巣を発見した場所です。2017年度初め、スンガイ・プトゥリ地域で中国系投資会社と関係する木材会社による長い水路が掘られたという写真付きのショッキングなニュースがありました。世界的に貴重な熱帯泥炭林を守るために調査を開始しました!

スンガイ・プトゥリの開発問題

左の地図は、IARInternational Animal Rescue)という国際NGOが作成したものです。赤い線がニュースに出ていた木材会社モヘアソンのコンセッション(土地利用許可)・エリア、青の線がパーム企業によるコンセッション・エリアで、大幅に重複しながら泥炭地の大部分を占めています。海岸沿いには村が並び、森林火災のホットスポットがオレンジで示されています。

 IARによると、この森には極めて深い泥炭林が広がり、1000頭を超えるオランウータンが棲んでいるが、開発により存亡の危機にあるそうです。    

スンガイ・プトゥリのCU「PANTURA LESTARI」

スンガイ・プトゥリ地域西部の海岸沿いをつなぐ道路沿いの村では、2008年から、NGOのFFITitianRAREが共同でプロジェクトを進めて、結果としてできたCUと呼ばれるクレジット・ユニオン(Credit Union=信用組合)が発展し、活動を続けているといいます。 

スンガイ・プトゥリ地域のCUは、「PANTURA LESTARI」と名付けられ、2010年に4村を主とした村人により設立されました。設立当時23人、資本金8800万ルピア(約75万円)だったCUの規模は、現在は580人、40億ルピア(約3,400万円)となりました。メンバーは週に1度事務所に集まり、男性2人、女性2人の専門スタッフがいます。

CUに入会すると、初めにお金を預けます。額は200万ルピア(約17,000円)が最低で、300万ルピア(約25,000円)が最高。借りるときは月利2%で、預けるときは1.25%、返さなかった場合は、ペナルティで借りられなくなります。現在のCUメンバーのお金を借りる目的は、①預金として、②生活の消耗品の購入、③車やバイクの購入、④商売を始める資金、などということです。

当初の目的は、お金がないために一時的な現金収入として違法伐採が横行していたので、村人でも気軽にお金を貸し借りできて運用できる仕組みとしてCUができ、実際に結果として違法伐採は減ったそうです。ただし、当初は、環境を破壊する行為には貸さないというルールがあったものの、今は特にルールは無い、ということです。そのようなルールが無ければ、CUで貸し付けたお金が、熱帯泥炭林を破壊する事業に流れる心配があるでしょう。実際に、スンガイ・プトゥリ村のアスパウィ村長にお話を伺ったところ、「村人はアブラヤシの開発を待っていると思う」とのこと。

もちろん全ての村人がそうではなく、自分たちの土地の権利を主張して開発に反対している村の住民もいるということです。また、環境林業省の政策で、70%の森林保全地域と30%の村人の収入になる土地利用をミックスさせた「アグロエコツーリズム」と名付けられた3000haの泥炭地植林が、2018年から計画されていると聞きました。すでにトゥンプラカン村の個人によって、ドラゴンフルーツ、ドリアン、チェンペダ、ロンガン、アボカド、ランブータン等約40haの土地で植林がすでに始まっているとのことで、CUでも一人1本1000〜2000Rpを出し合って、メンバーで苗を用意する話をしているとのことです。

 

NGOによるコミュニティ・オーガナイズの取り組み

FFIのパームシュガーを用いた地域支援プロジェクト

インターナショナルNGOFFIFauna & Flora International)のアディ(ADI)さんによると、現在FFIでは、HUTAN DESA(村の共有林)でのコミュニティ・ビジネスの支援を通じた熱帯林保全プロジェクトとして、中央カリマンタンのMurung Raya地区での野生のコーヒー、Kapuas Hulu地区での天然ナッツ、クタパン地区での地域特産パームシュガーを扱った3つのプロジェクトを進めているということでした。

これらのプロジェクトに共通することとして、その地域で昔から収穫している農作物を使うことで、アブラヤシ・プランテーション開発のような大規模な環境破壊を伴わないことがあげられます。また、90%がコンサベーション、10%を生活支援に当てることで、環境保全と生活の向上の両立をめざしています。

例えば、クタパン地区Laman Satong村では、パームシュガーをコミュニティ・ビジネスとして販売するプロジェクトを20178月にスタートしましたが、野生のArenArenga Rineto)の木から130リットルのパームシュガーが毎日場所を変えて収穫ができます。ケタパン地区は現在ジャワ島から1ヶ月2トンほどのパームシュガーを輸入している状況なので、売れば余計な支出を収入に変えることができます。また、大きな工場ではなく、家庭規模で加工するレベルなので環境負荷や過剰生産も少なくなります。かつては地域で伝統的になされていた技術の継承にもつながりますし、他の地域との交流を通して知識や経験を学ぶこともあるそうです。

 JICAクタパンオフィスの取り組み

JICAといえば、日本の政府開発援助(ODA)を一元的に行う政府の機関ですが、現地ではNGOとして知られているようでした。JICAケタパンオフィスでは、主にグヌンパルン国立公園のマネジメントをしていますが、国立公園スタッフのキャパシティビルディングやローカルコミュニティとの協働も行なっているとのことです。20173月から、この地域の21の村の利用可能な土地(Land use area)で、国立公園スタッフや火災対策オフィスと協働しながら、ローカルコミュニティ向けの森林火災対策として村人へのファシリーテートを始めました。まずはコミュニティオーガナイズ(住民の組織化)をし、Behavior Change(意識と行動の変容)をめざしていくとのことです。また、「コミュニティ・パーセプション・スンガイプトゥリ」というプロジェクトをスンガイ・プトゥリ村で来年始めるので、ウータンもよかったら参加してくださいとのことです。ヒアリングで伺ったJICAケタパンオフィスの役割は、主に地方政府、地域コミュニティ、学者、NGOの調整役ともいえるようなイメージでした。

 

IARとオランウータンの棲む森

IAR(International Animal Rescue)のオフィスは、オランウータンのレスキューをしているだけあり、豊かな森に囲まれた広い土地にあります。IARでは、木材会社モヘアソンによる開発等、スンガイ・プトゥリの現状を聞きました。その時に見せてもらった690kmに及ぶ長い運河が掘られている上空からの映像はとてもショッキングなものでした。この会社のコンセッションエリアには深い熱帯泥炭林も含まれていますが、開発が続けられれば、IARの推計で1000頭以上のオランウータンがいるスンガイ・プトゥリの森での野生生物への影響によるダメージ(IARはこれまでこの森から25頭のオランウータンを救助した)にさらに拍車をかけるものとなります。 

 この森では、以前からも周辺部からの開発、森の中での違法伐採があるとのことですが、実際に2日目に僕たちが訪れたスンガイ・プトゥリの熱帯泥炭林の入り口では、2010年頃の違法伐採の痕跡や森林火災による影響が見られました。また、驚いたことに、火災後の地面からアカシアの木が成長しており、聞くと数キロ先のアカシアプランテーションから風で飛ばされた種が勝手に成長しているだろうということでした。

モヘアソンによる開発は、インドネシア政府も問題にしているようで、2016年12月には泥炭地回復庁(BRG=Badan Restorasi Gambut)がやめるように言ったにもかかわらず、2017年1月にも掘られ、その全ての土地が泥炭地であったとのことです。これに対して、IARはウェットランドやグリーンピースと共同でインドネシア林業省に対して問題を訴えました。 コンセッションエリアは、村の土地とも重なっており、この地で農業を行う彼らの生活への影響も心配されます。企業からはわずかな補償しかないそうです。コンセッションエリアの接する5村の農民はジャカルタで林業省の人間に会って問題を訴えたいと思っており、NGOのサポートがいるかもしれないということでした。一部の村人は企業に対してデモを行ったが、コミュニティリーダーは買収されているそうです。  

開発を止めるための戦略としては、コミュニティの反対を促すこと最も強く、NGOが言うよりも地域住民が声を上げることが効果的であるために、IARはコミュニティ支援を行なっているが、この方法には時間がかかる。一方で、今回のケースのように差し迫った開発に対してはキャンペーンとメディア戦略も必要となるというカーメレさんのお話でした。

スンガイプトリで続く違法伐採とオランウータン

スンガイプトリ地区の海岸近くに位置する 57000haが泥炭 湿地林ですが、そのうち48440haにPT. Mohairson Pawan Khatulistiwa社(以下 MPK 社と表記) の森林伐採権が2008 年から 45年間設定されています。地区用途区分は伐採やプランテーション開発が認められる生産林および転換生産林で、保護林 全く存在しません。2013 年以降、MPK 社 中国投資家から資金支援を得て、60kmに及ぶ排水路建設を計画し工事を始めました。2016 年 10 月に泥炭地保護大統領令に違反して排水路が建設されていることが地元住民から通報で知られ、2017 年 3 月に森林・環境省が現地を視察し MPK 社に活動停止と水路封鎖を命じました。

2017年11~12 月に地元 NGO YIARIとBKSDAの共同チームがMPK社の許可を得て、コンセッション内でオランウータン、植 生、泥炭状況について緊急調査を行いました。その報告書が今年 3 月に完成、6月5日にGreenpeaceがこのレポートについてプレスリリースを行い、AP電を通じ世界主要紙が報道し広く知られることになりました。それによるとオランウータンの巣の数は、スンガイプトリ地区全体で813から1204 頭と推定、保護区域外生息数として世界最大であると確認されました。この調査中に違法伐採が日没後日出まで間に盛んに行われ、少なくとも 6 か所に伐採キャンプ兼製材置き場が存在し、違法伐採キャンプが 6 か所以上存在、昼間にトラックで運び出されていることが確認されました。泥炭地の深さ調査からコンセッション 84%以上が泥炭地生態系保護機能地域に分類されるべきで、泥炭地とオランウータン、周辺地域住民の農地を守るために、保護区域に指定しプランテーション開発を中止させることが緊急に必要としています。しかし、州知事や県知事は誘致した中国系合板工場で雇用を守るために開発継続を主張しており、森林・環境省と 対立が続いていて予断を許さない状況にあります。

今年4月6日付の森林・環境省準公式サイトforesthints.news で現地視察時の多数の写真が公開されました。これによるとMPK 社コンセッション内に現地作業事務所建設工事を進めており、作業計画書によれば、伐採・排水されたコンセッション内の泥炭湿地林は、ほどなくジャボンという早生樹 プランテーションに転換されるだろうとしています。スンガイプトリ地区南端に事務所を構える IARは、オランウータン保護・リハビリだ けでなく、生息地や生態系を守るに地域住民が中心になって動く必要があると考え、昨年私たちを案内してくれ たエマさんをコミュニティー・オーガナイザーとして迎え、住民への意識啓発や働きかけを強化してきました。

今年 1 月 10 日に住民、政府、民間部門、NGO から70 名以上が参加し、住民参加型地図作りと土地利用計画策定に向けた公の協議が行われました。これは、IAR と熱帯林保護 NGO Tropenbos Indonesia が共同して開いたもので、スンガイプトリ村のアスパウィ村長も出席していました。IARは森林を保護林と利用林に区分する提案を行ったが、村長はこれを拒否し、IAR にアブラヤシ企業を連れてくることを求めたといいます。これを受けて IARは、スンガイプトリ地区 8 村のうちの別村でコミュニティ開発を支援することを決定し、タンジュン・バイク・ブディ村とウラック・メダン村の住民による地図作り・土地利用計画策定とそれに基づく村づくりを Tropenbos とともに支援しつつあるといいます。私たちも9 月初旬に再訪し、エマさんとクタパンに事務所を構える Tropenbos を訪問し、今後ウータンとしてどのような協力や支援ができるかを話し合う予定です。

熱帯泥炭地再生の先進地域視察

インドネシア中央カリマンタン州(ボルネオ島)は、2015年の大規模森林火災の際に、全国最多の30057ヵ所(森林・環境省)のホットスポットが見られた州で、そのうちプランピサウ(Pulang Pisau)県は3201ヵ所と最多を占めました。焼失面積も75.5万ヘクタール(泥炭地 44.1万ha、非泥炭地31.1万ha)と全国最大で、火災後に大統領直属の機関として新設された泥炭地回復庁(BRG)も中央カリマンタン州を森林火災対策・泥炭地回復の最優先地域と位置付けている注目の地域です。

泥炭地回復と森林火災防止の最前線 ―中央カリマンタン州メガライスプロジェクト跡地―

インドネシア中央カリマンタン州(ボルネオ島)は、2015年の大規模森林火災の際に、全国最多の30057ヵ所(森林・環境省)のホットスポットが見られた州で、そのうちプランピサウ(Pulang Pisau)県は3201ヵ所と最多を占めました。焼失面積も75.5万ヘクタール(泥炭地 44.1万ha、非泥炭地31.1万ha)と全国最大で、火災後に大統領直属の機関として新設された泥炭地回復庁(BRG)も中央カリマンタン州を森林火災対策・泥炭地回復の最優先地域と位置付けています。 

プランピサウ県は、メガライスプロジェクト(「スハルト政権末期の1996 年に食料不足解消を目指した国家事業として中央カリマンタン州南東部の広大な泥炭湿地林を開墾してジャワ島やバリ島などから多数の農民を入植させて、総延長4000km以上に及ぶ灌漑水路網を掘り水田造成を試みたが、ことごとく失敗して、広大な土地が放置されたままになっている)が行われた地域で、10m以上の深さの泥炭層からなり、インドネシアの温室効果ガスの大きな排出減となっています。インドネシアの場合、土地利用変化による温室効果ガス排出量が85%を占め、泥炭地の破壊と分解が41%、森林の破壊と劣化が37%を占めます(熱帯泥炭地と気候変動参照)。これらを考慮に入れると世界第3位の排出国であるインドネシア政府は、2030年までに温室効果ガスの41%削減をパリ協定で約束していますが、この実現のためには泥炭地の回復が喫緊の課題です。そのため政府は泥炭地での新規プランテーション開発の凍結措置に加え、水路閉鎖(canal blocking)による再湿潤化などの事業に、地元大学や国際的な支援のもとに乗り出しているのです。

カナルブロッキングの先進地域ガルン村

ウータン・森と生活を考える会では、元北海道大学の大崎満先生、高橋英紀先生にご紹介いただき、地元のパランカラヤ大学土地火災・森林回復センター長のアスウィン先生を訪ね、彼の助言とコーディネートに従い、泥炭地保全と回復事業の最前線の現場を3つの村で見て回りました。

プランピサウ県ガルン(Garung)村(村長 Wanson氏)は、360 世帯1560 人、村の面積10080haのうち、ゴム園が2188ha、稲作地が 1001haを占め、ゴムと稲作を主業とするダヤク人主体の村です。村役場から近い縦貫道路沿いの古いゴム園の中に作られた掘り抜き井戸(sumur bor、bore hole)は、泥炭層の下にある砂質の基盤層内 25~30mの被圧地下水層に達する井戸を掘削し、森林火災の際の消火に利用するためのもので、簡単な道具と資材を使い6~7人のチームで3時間で完成 し,150万ルピア(約13000 円)で1本を掘ることができます。幹線道路から直角方向に100mおきに掘られ、400m隔てて並行して同様に掘られます。これによって川から離れた森林火災危険ゾーンで200mのホースがあればくまなく森林火災に対応できることになります。この村では2016年からICCTF(インドネシア気候変動信託基金)の助成で100本が掘られ、さらにBRG(泥炭地回復庁)の資金で100本が掘られる予定だといいます。

カハヤン川から流入する茶色く濁った水を湛えた4m程の幅の二次水路はハンディル (handil)と呼ばれ、住民の要望で政府が建設し、住民が組合を作って管理しています。2016年にBRGの資金でスカット(sekat)と呼ばれる木製の堰堤が建設されました。これは泥炭地の地下水位を保って乾燥化と火災のリスクを減じる目的で建設されるのですが、農民が農地へ通う小船が通れる幅と4~50cmの水深を保ってブロックしています。5人で5日がかりで500本のガラム(galam, Melaleuca)の小径丸太を使い500 万ルピアの予算で作られました。 

 

この水路沿いには2015年の森林火災で焼失した跡地が広がり、パイオニア種に交じって新たにゴムとセンゴン(sengon, Albizia chinensis)やジャボン(jabon, Antho)が植えられていました。この村では2016年、BRGとパランカラヤ大学の支援で共同樹苗園を作り、共有地20haに8000本の植林を行いました。植えられた樹種はセンゴンというマメ科ネムノキ属の在来早生樹で、半年で4mにも成長し、6~7年で伐採可能だといいます。この木はアブラヤシのように泥炭湿地を排水せずに植えることができるパルディカルャーの経済樹種のひとつで、30%は住民の収入創出源に、70%は泥炭地保全にという土地利用のモデルとなっています。センゴンは家具や棚用材として利用され、40万ルピア/m³で取引され、市場価格は110万ルピアということで、インドネシア各地でセンゴンの植林ブームが起きているようでした。

 

火災防止の先進地ゴホン村

ガルン村の南に隣接するゴホン(Gohong)村は、564世帯2150人とかなり大きな村です。この村では 2006年のカリマンタン縦貫道路建設前は森が保たれていましたが、外部から人が入りタバコの火の不始末等が目立つようになり、エルニーニョ現象が生じた 2007年の森林火災を機に自衛消防団が結成されました。この村では他村に先駆けてBRGの事業として防火帯(sekat bakar)が作られ、ごく最近も外国からの視察団が訪れたといいます。森林火災跡地の泥炭地林を幅10m余りで直線状に伐採し、中央に掘り抜き井戸を配し、両側400m間隔で並行して防火帯が設置されています。この村でちょうど井戸を掘っている場所があり、水が出るまでの一部始終を見ることができました。

燕ハウス建設ラッシュのタルナ村

タンジュン・タルナ(Tanjung Taruna)村は、カハヤン川沿いにある漁業を主な生業とする人口713人の村です。村役場のそばには真新しい立派な火の見櫓が設置され、さらに泥炭地の水位を記録しリアルタイムでウェッブサイトに表示する日本製の機器が設置されていました。今年に入りBRGは泥炭地の地下水位を40cm以内に保ち火災の危険性を減じる監視装置としてプランテーション企業に設置の義務化を検討しているものです。

役場裏手にはパルディカルチャー(泥炭地で排水せずに行う栽培)でチューインガム用樹液をとるジュルトン(jelutung, Dyera)の樹苗園も見られました。 

村はずれには今年初めからBRGによる泥炭地での収入創出事業としてバリ牛飼育プロジェクトが始まり畜舎が設置されていました。バリ牛と地元種カティンガン牛50頭余りをBRGから供与され、25人(実働5人)のグループで自然の草のみを飼料として飼育しています。まだ販売実績はないが仔取りと肥育の両方を手掛けて新たな収入源となるよう、飼育経験のあるバンジャル人男性が世話をしていました。牛糞を堆肥化して野菜栽培や将来的にはバイオガスによるエネルギー自給も目指すといいます。

ここでは湿地に自生するプルン(purun, Lepironia)という植物を使って敷物などを編む手工芸も女性たちによって副業として行われていました。 

しかしこの村では今,燕ハウス建設ラッシュが起こっていて、2年前から家の背後に4階建てのごく小さな窓だけの建物が次々に建てられ、高級食材として知られる燕の巣を作るアナツバメが飼育されています。世話をする村人は収益の10%、村人の土地に建てられた場合は収 益の50%を受け取るシステムで、1kg当たり1000万ルピア(8.2 万円)で売れ、5年待って収穫すると1棟で50kg 取れるといいます。湛水した土地の各所に売地の看板が見られました。

熱帯泥炭地保全の先進地域視察

インドネシアの熱帯泥炭地がアブラヤシ農園やアカシア植林地に転換されて急速に失われていくなか、スマトラ島東岸のスンガイ・トホール村では泥炭湿地を保全しながら生活が営まれてきました。そこで栽培されているのは、”サゴヤシ”という幹に多量の澱粉を含む椰子。村人の日々の食料から輸出用工業原料に至るまで、多様な利用が行われています。こうした持続可能な村の暮らしを2018年3月ウータン・森と生活を考える会のメンバーが視察しました。

サゴ椰子と生きる村
スンガイ・トホール

サゴヤシは、ニューギニア島やマルク諸島湿地に自生し、1 本の幹に150kg 以上の澱粉を含むヤシで,この地域で主食となっている重要な食糧作物です。この村では8 割以上の住民がサゴヤシ栽培に携わり生計を立てています。 強酸性土壌でも塩分濃度が高い土地でもよく育つ,泥炭湿地環境に適した作物で,アブラヤシやアカシア植林と違って排水を行わずに栽培できるパルディカルチャー(湿地を損なわずに商業的価値あるものを生産する取り組み) にうってつけの作物です。しかも単位面積当たりコメの4 倍以上の24 トンもの澱粉が得られ,1 日の労働で17日分の食料が得られるという夢のような作物で,政府もFAO(国連食糧農業機関)も食糧危機の救世主として注目しています。

森林土地権の獲得に至るまでの長い闘いの歴史

この村には森林土地権の獲得に至るまでの長い闘いの歴史がありました。2002 年、この村と周辺 7 か村に設定されていた森林伐採権を持つ企業により、住民のサゴヤシやゴム農園が損害を被ったため,激しい抵抗運動が展開され、伐採キャンプや前村長宅に放火、この罪で多くの住民が投獄されました。これを機に、村がこの 土地の管理権を獲得するための政府との交渉をWALHI(インドネシア環境フォーラム/FoE インドネシア) が支援するになりました。こうしたなか 2008 年に産業造林企業がこの土地の開発権 (HTI)を取得し,住民の反対運動にもかかわらず 10km の大規模排水路を建設した結果、2011 年頃からこの影響で地下水位が低下し、サゴヤシの収量が 3 割ほど減少してしまいました。住民は暮らしを守るために水路に木製の堰堤(sekat kanal)を数多く建設し(カナルブロッキング)、泥炭地の地下水位の低下を食い止める保全活動を始めました。住民は WALHIの支援の下、政府にコンセッション取り消しの請願を続ける一方、村を「持続的泥炭地農業のセンター」にする構想を持ち、若い農民を 組織し、農業多角化のための展示圃場や植林のための苗床設置を行ってきました。

ジョコウィ大統領による視察

そうしたなか、2014 年 2 月にタバコの不始末から火災が発生し、排水され乾燥化した泥炭地に延焼し大規模森林火災となりました。就任したばかりのジョコウィ大統領に視察を依頼したところ、大統領は即座に快諾し、同年 11 月末にトホール村を訪問しました。住民による泥炭地管理に感銘した大統領は「アブラヤシようなモノカルチャープランテーションによって熱帯林が失われることを許してならない」と発言しました。2016 年に BRG(泥炭地回復庁)長官も視察に来村、マナンさんはインドネシア環境賞を受賞するなど、この村が泥炭地保全モデル事例として全国に知られることになりました。同年、政府はHTI(土地開発権)を取り消し、昨年 4月に10,390haの土地管理権が地元 7 村に正式に与えられることになりました。

自助組織による熱帯泥炭地保全

この村のマナンさんという50 歳前くらいの温和な村づくりリーダーは、サゴ麺製造業を行う傍ら、彼が組織した EKAという自助組織の若者たちが自立した生計を立てられるような、新しい有機農業実践圃場を自らの土地を提供して始めました。10 人余りの若者たちが毎日、畑作業に集まり、昼間に水やりや管理作業を行い、夜遅くまで作業小屋で語り合っていました。日本で有機農業経験があるウータンのメンバーが、彼らと野菜談義に花を咲かせました。若者たちが村に留まり多角的な生計を確立し、泥炭地を保全していく営みが持続・発展していくことを願ってやみません。

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