失われる生物多様性

地球上にはどれだけの生き物がいるのでしょうか。私たちの生活も様々な生き物に支えられて成り立っています。その生き物を支えるのが 生態系です。この生態系ももしかしたらいとも簡単に壊れてしまう可能性があります。複雑な生態系を有する熱帯雨林も例外ではありません。

ストーリー1 生物多様性とは

生物多様性とは、生きものたちの豊かな個性とつながりのことを指します。地球上には40億年という長い歴史の中で、さまざまな環境に 適応して進化した、3,000万種ともいわれる多様な生きものが生まれました。これらの生命は一つひとつに個性があり、全て直接的、 間接的に支えあって生きています。生物多様性条約では、生態系の多様性・種の多様性・遺伝子の多様性という3つのレベルで多様性が あるとしています。(*1)

*1981年、『生物が一日一種消えてゆく』 (小原 秀雄)(*2)という本が出版され、衝撃をあたえました。しかし現在、種の絶滅を 測るのは「時間あたり」となっています。

過去の自然状態での絶滅は数万年~数10万年の時間がかかっています。平均すると一年間に0.001種程度であったと考えられています。 一方で、人間活動によって引き起こされている現在の生物の絶滅は、過去とは桁違いの速さで、1975年以降は、一年間に4万種程度が 絶滅しているといわれます。(*1)

急速に失われる熱帯の森は地球上の約半分の生物種が生きています。その中には、全く私たちに存在を知られることなく消えていく種も 多いのです。

ストーリー2 熱帯林の生態系はとてつもなく豊かで複雑

一つの種が欠けると、他の種にしばしば深刻な影響を与えます。例えば熱帯林のイチジクの仲間(クワ科イチジク属)は、オランウータンを はじめ、沢山の動物の食料ですが、小さなイチジクコバチ(類)という蜂に花粉を運んでもらいます。 イチジクの種類ごとに異なるイチジクコバチがいます。一種のハチに適応した植物は、その蜂がいなくなれば生きてはいけません。 この関係を相利共生といい、長い長い時間をかけて共進化してできた結果なのです。

土壌には「分解者」と呼ばれるさまざまな生物がいます。 枯死木や生物の死骸を分解してバイオマス(生物由来の有機生資源)に 変える働きをします。たとえば、熱帯地域に多く分布するシロアリ類は 枯死木を分解して年間1ヘクタール300kgものバイオマスを 生産します。これらはセンザンコウ・オランウータン・鳥類などにとっても重要なエネルギー源となるのです。 開発で枯死木などが取り除かれると、シロアリとともに豊かな生物相も消えてしまうのです。(*3)

これらの生態系は何億年も気の遠くなる歳月をかけて形成されてきました。そのバランスは一度壊れてしまうと元に戻すことは不可能なのです。

ストーリー3 インドネシアは「ホットスポット」

インドネシアの森林は、世界のなかでも生物多様性が特に高く、一方絶滅危惧種も多い「ホットスポット」となっています。 ホットスポットとは、そこにしかいない維管束植物の「固有種」が1500種以上生息し、人の手が加わったために、原生的植生の内 7割以上が失われている、つまり多様な植生ではあるが、失われる危険にさらされている場所です。 WWF(世界自然保護基金)によれば、インドネシアの面積は地球の地表の1.3%に過ぎませんが、世界に残存する熱帯林のおよそ10%が インドネシアにあり、世界の植物種の11%、哺乳類の12%、爬虫類・両生類の 7.3%、鳥類の17%が生息しています。(*4)

インドネシアは沢山の島からなり、島単位で隔離されて進化を遂げたことや、アジアとオーストラリアの2 つの動物区にまたがるため、 特に多様な生物が生息する場所です。

また種類の多さだけでなく、ここにしかいない「固有種」が数多く見られます。植物では、ラミン、メランティといった稀少樹種をはじめ、 生態系の上位に位置するスマトラトラ、マレーグマ、ウンピョウ、ボルネオゾウ、オランウータンなどが挙げられます。

しかし、その多くはIUCNの絶滅危惧種に指定され、あと数年後には地球上から姿を消してしまうかもしれません。

ストーリー4 私たちへの恩恵

私たちの暮らしには食べ物、衣類、住まいなどありとあらゆるものが生き物からの恩恵を受けて成り立っています。 西洋医薬の25%は熱帯林産といわれます。インドネシアの微生物からマラリアの新薬が研究されるなど、医薬品の資源としても重要です。 米国国立がん研究所が制がん性を認める植物の70%は、熱帯雨林だけに見つかります。

穀物や野菜、果物といった農作物は野生の植物を改良したものであり、多様な生物の進化があってこそ生み出されています。また、生物種が 生き残るためには、気候の変化や病気の蔓延などが原因で絶滅しないように、さまざまな環境変化に適応できる遺伝的多様性も必要です。 私たちが生きていくためには多様な生き物とそれを支える生態系が必要なのです。 熱帯雨林の持つ様々の「生態系サービス」をお金に換算すると、年平均で1haヘクタールあたり54万円、全世界で982兆円という試算も あります。(*5)私たちは本当にこれだけの費用を払ってきたのでしょうか。 この世界は絶滅しそうな生き物を含めたすべての生き物のものです。そして私たちもその生き物の一つなのです。

ウータンはインドネシアで失われてしまった熱帯林再生のために植林を行っています。オランウータンなどの多様な生き物が住める森をめざし、 その土地に適応する原生種を植える活動を行っています。一人の小さな一歩で世界は変わります。私たちに力を貸してください。

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(*1)環境省: 「生物多様性」(2016/1/1アクセス)
(*2)小原秀雄(1981): 「生物が一日一種きえてゆく-滅びの動物学」ブルーバックス
(*3)大崎満、岩熊敏夫(2008): 「ボルネオ-燃える大地から水の森へ」岩波書店
(*4)WWFジャパン: 「インドネシアの森林保全」(2016/1/1アクセス)
河本晃利(2011): 「インドネシアの生物多様性の現状と保全施策について」『海外の森林と林業』82,PP22-27
(*5)IUCN(2009): 「A Gateway to PES」
環境省(2011): 「図で見る-環境白書 循環型社会白書/生物多様性白書」